--DIESEL SHIBUYAでホームコレクションのためのインスタレーションをしてみていかがでしたか?
ケイコ(以下 K): 渋谷店は、まずカフェとブティックの組み合わせが、新しいディーゼルというブランドの楽しみ方を生み出しているのを目撃しました。ランチの席待ちをしているお客さんがウェイティングリストに名前を書いた後、ブティックで服を見ながら待っていたり、カフェの店員さんの着ているTシャツに興味をもって、Tシャツと一緒にブティックのフィッティングルームにすうっと移動して、試着したりしていました。カフェのメニューや接客も素晴らしくて。ファッションだけじゃない、ライフスタイル全般をディーゼルらしく楽しむことを提案している、その本気さを感じました。
マナブ(以下 M): 他にも、アート、音楽、自動車、自転車、バイク、ホテル、みんな本気。それをファッションブランドのディーゼルがやっているなんてすごい。奇蹟の実現みたい。だから、その一翼を担うホームコレクションのためにどんなスペースをデザインするか、それは僕らにとっても重責で、その答えが「MAGIC TENT」です。
--それではその、「MAGIC TENT」のコンセプトを聞かせてください。
K : ディーゼルホームコレクションの魅力に、ちょっとだけマジックをかけて、商品を体験できる空間です。町にサーカスがやってきたような期待感、幕前のなんともいえない高揚感。人と空間のスケール、コントロールされた視覚効果、躍動感、浮遊感、空気感。それがディーゼルのコレクションの魅力と呼応することで、商品をみなさんの暮らしの中にとりいれる、楽しいヒントになるかなと思いました。
M : 大きな鏡によって、洋服を試着するように家具を自分に合わせて見られるのが特徴です。 これまですでにディーゼルが打ち出してきたロックなテイストは、いくつかの商品からすでに強く伝わってくるので、その先の、ラクジュアルなリラックスというかオーガニックなテイストの商品が、MAGIC TENTならではの手法で互いにアレンジされるシーンを作りました。その鏡像の背景の映り込みによって、DIESEL SHIBUYAならではの効果が出来ています。
--DIESEL SHIBUYAならではの効果とは、どういうものでしょう?
K : 例えば今は、FOSCARINIの黒のROCKがぶら下がっている向こうの、アートギャラリーの動画映像がMAGIC TENTのミラーに映り込んでいて、映像シーンが変化していくことで新たな空気感が生まれています。また、ギャラリーの絵をMAGIC TENTのほうに持ってきて展示することで、ホームコレクションとアレンジした、アートのある日常を提案していて、見に来てくれた方がホームコレクションを欲しいなと思ってもらえるのと同じ位、アートにも興味をもってもらえれば。ほかにもホームコレクションの商品がカフェ・ブティック各店内で実際にインテリアとして使われているので、そういった大きい規模でのクロスMDが出来ているのはディーゼル渋谷店ならではの効果で、MAGIC TENTはそれをより強調しています。
M : すでにお店にあったアイスクリームスタンドやピエロの遊具などのアンティーク什器も、MAGIC TENTが現れたことでより活き活きしているように見えます。夜お店に誰もいなくなると、一緒に遊んでいそう(笑)。
K : MAGIC TENTの展示期間は約1年ですが、隣のアートギャラリーが3ヶ月に1度変るので、MAGIC TENTもそれに合わせて変化していくことで、一緒に盛り上げて行ければと思っています。
--お話を伺っていると、インスタレーションというよりも、ショップデザインに近いですね。
K : まわりの環境や商品と、新しく自分たちがデザインするものがよりよい関係を持つようにすることを心がけましたが、それは普段のショップデザインともあまり違いはないですね。
--ディーゼルホームコレクションについて、どんな印象をお持ちですか?
K : 個性的だけれど、どれをあわせてもしっくりくるこのコレクションはとても興味深いです。 例えばDIESELのディレクションによって、共通した「ロック」というデザインコンセプトでFOSCARINIがペンダント照明を、MOROSOがイスを、そしてZUCCHIがベッドスプレッドをというように、このクオリティで揃えられるのはすごいこと。
M : ランボルギーニカウンタックなどと同じ、真剣なイタリアンプロダクト特有の香りがします。どこにも手が抜かれていない作り方、デザインは、同じ作り手として共感するし、尊敬します。照明器具だからこのくらいの作りでいいだろうとか、あんまり作り込むと難しくなっちゃうから止めとこうとか、そういうのが一切ない。それはファッションブランドであるディーゼルだからこそ実現出来たのでしょうね。
--ではおふたりのこれまでについて聞かせてください。
K : 私はアメリカで、マナブは日本で建築学を勉強してその後、それぞれ建築設計事務所に勤めました。私は建築設計事務所のSANAAで海外のプロジェクトを中心に、ショップのデザインから美術館まで色々なスケールのプロジェクトに携わり、マナブは国内で木造・鉄骨・コンクリートと様々な工法で住宅から消防署などの公共施設を作る経験を積みました。 ふたりとも独立して、初めて一緒にデザインさせて頂いたのがファッションブランドのショップビルの内外装で、その後もデミタスカップ、イス、インスタレーションやアートワーク、今は建築のデザインディレクションのプロジェクトも進行しているといったように、幅広くいろいろなものをデザインしてきました。
M : よくキャッチコピーみたいに「ピアスから都市計画まで」デザインしますといっていましたが、ピアスのデザインは実現しました。都市計画はどうかな?(笑)
--そんなおふたりをアイデンティファイしているものや場所、経験は何かありますか?
K : いろいろあるけれど、わかりやすいのは “Sitka Alaska” (シトカ)です。私はシアトルで生まれて、その後はアラスカと東京を、行ったりきたりしながら育ち、高校時代をこのシトカ島で過ごしました。東京の2倍の面積に人口8000。19世紀は半ばまでロシア領で、その文化は建物やダンスとして今も残っていて、そこにそれ以前から1万年続いているネィティブインディアン文化があり、そして今はそこにアメリカの文化や歴史も加わって、いろいろな文化が混じり合った独特な場所。無数の島々が浮かぶ海に、そびえる富士山のような島、背後は雪山に囲まれた美しい島と東京を幼少期から行ったり来たりしていました。十代を過ごした大切な場所です。学校の行き帰りにラッコやアザラシ、クジラが見えたり、庭の木に白頭鷲の群れがとまっていたり、春には鰊の群れが産卵をしに海岸に来て湾全体がシルバーに輝いたり、夏の川には鮭の群れがあがっていきそれを捕まえて食べるヒグマがいたり、あのときはそれが日常でしたが、今の東京での暮らしと比較すると、相当ワイルドな環境に囲まれていましたね。
M : 僕は岩手、北上川の源泉の地にファミリーネームがsawaseばかりの小さな小さな集落があって、祖父が生まれた所で、今年初めて訪れたのですがすごくスピリチュアルな体験でした。まるで自分が大地そのものから生まれてきた、キノコみたいに感じた。祖父がそこから、より広い世界を求めて盛岡に出て、父が、そして僕が、さらにより広い世界を求めて盛岡を出たのだなあと感慨深かったです。
--デザインのインスピレーションは何から得られるのですか?何がおふたりを刺激するのでしょう?
K: 世界中どこへでも、訪ねていくと普段暮らしている空間や街との違いが面白くて、地元の生活を体験するのが大好きです。もし自分たちの日常生活がここにあったなら、ここになにか自分たちが建物やお店をデザインするとしたら、どんなことをしたらその場所やそこに住む人々にとって良いのだろう、といつも想像してしまいます。それが良いトレーニングになっているのかも。
M : 日常、普通に生活する人間として家族や友人、地域の人々、仕事の仲間、社会や自然から感じることのすべて。それらと自分たちがわかちがたく縁を持っているという認識が最も強くインスパイアします。
--今後についてお聞かせください、新しいプロジェクトなど。
K : 今は北海道でケーキのデザインをしてます(笑)。MAGIC TENTのプレゼン中に家具の模型をつくったのですが、その可愛さからインスパイアされて始まったデザインなんですよ。 ウェディングの衣裳室、ブランドのショールーム、フレンチレストラン等増々分野は広がっていますが。そごう西武の、いくつかの女性用化粧室の入口に、ウェルカムウォールと呼ばれているアートワークがもうすぐ出来ます。
M : 来春にはKEIKO + MANABUとして初めてデザインディレクションしている新しい建築が都内に完成予定です。
--MAGIC TENTを訪れる皆さんにメッセージを。
M : ホームコレクションの魅力に注目してください。それと、鏡でいろいろ遊ぶと楽しいよ! 僕はお店の音楽に合わせて踊りました、楽しかった!
K : 一年間衣替えをしたり、レイアウトを変えたり、イベントしたり、変り続ける予定なので時々新商品チェックとインスタレーションに遊びに来てください。MAGIC TENTを楽しんで頂けると!