--まずはじめに自己紹介をお願いします。
ロンドン生まれ、ロンドン育ちです。二人の娘がいて、いたって一般的で素晴らしい人生を過ごしています。それは自分の情熱を注ぎこめる仕事があるからです。本を読んでいるのと音楽を聴いている時が楽しいひと時です。私はシャイで内向的です。あまり自信、自負心というのはなく、もしかしたら常識もないかもしれない。他に自分について言えることはそんなにないと思います。きっと今回伝えたこと以上に興味深いことはないですね。
おっと、そういえば一つありました。政治に強い興味があってイギリスで行われた政府の横暴な悪事は嫌いです。これは余計なひと言でしたね。
--fabricを立ち上げた思いや動機を教えてください。
それは自分たちが好きな音楽をプレイする場所をつくるというシンプルなモノでした。プロモーターにとって90年代初頭から半ばまで良いクラブを見つけることが非常に難しい時期でした。ほとんどのロンドンのクラブは下品なハウスを掛けてバーの売上を上げるというようなものでした。不幸なことにアルコールを嗜む舌ほど彼らの耳は研ぎ澄まされていませんでした。そういったこともあり、自分たちのスペースを持ちたいという願望は非常に強くなりました。
--DJマグtop10内のベストクラブに入るなど、創立から13年間も世界中の注目を集め続けるクラブとして、若者を引きつけるムーブメントの発信で秘訣や心がけていることはありますか?
何も秘密なんかありませんし、マジックみたいなことでもありません。ただ自分たちが好きなアーティストを出演させて、みんなもそのアーティストを気に入ってくれることを願っているだけです。それがfabricの存在意義の一部でしょう。私たちの音楽的好みを如実に反映させたクラブ、それを続けてきたし、今後もそうしていきます。飽くなき探究心が我々にはあり、それが物事を前進させ、フレッシュな状態に保ってくれるのです。もちろん他にも欠くことができない要素があります。良いサウンドシステムにオぺレーションチーム。でもクラブをやりたいと思う人なら、こういったことには気づきますよね。本当にシンプルなんです。良いサウンドシステムをゲットして自分の信じる音楽をプレイすれば良いのです。
--fabricのCDやPOSTERなどビジュアル(アート)に力を入れている理由は?
これも同じです。シンプルな答えです。アートが好きなのです。プロモーションツールを創るということは、同時に自分たちのクリエイティブな情熱を表現する場になります。自分たちが美しいと思うものを創り、他の人と共有することは喜びであり、自分たちを満足させることです。アートこそ最もパワフルな導線として文明と人間性のなかに存在すべきなのです。たとえ一瞬だったとしてもあなたを変える美しいものや驚嘆すべきものを見た時、何か感じるはずです。もしかしたら何か大きいことがしたいと刺激を受けるかもしれません。またアートはコミュニケーションとして言葉よりも伝えやすい方法です。ヴィジュアルランゲージとしてfabricの性質やキャラクターを定義しています。一風変わったイメージはfabricが象徴する違いや信条、好みを伝えるより上品な方法です。
--DIESEL ART GALLERY “US by fabric”展について教えてください。
展示されているコレクションはfabricでこの13年間に制作されたものの中から選ばれたものです。私たちという意味の“US”とタイトルをつけたのは、様々な人がこの作品たちに関わり、その人達が投影されたものだと色々な意味で感じたからです。今までもこういったエキシビションを頼まれることがありましたが、とてもお金が掛り、消耗する作業のためなかなかできなかったのです。DIESELからのオファーもあり、彼らと会った後にタイミングとして最高だと思いました。私はDIESELがアートや音楽をサポートしていることに敬服しています。彼らとできるという事が決断のポイントでした。自分と同じ情熱をDIESELが持っていると感じ、エキシビションが開催できると感じました。
--fabricのアート作品が出来上がるまでの流れを教えてください。
全ての作品ごとに違います。大抵の場合、いくつかの過程を経て完成します。ペインティングやスケッチ、写真、モデリング、彫刻などが含まれます。純粋なグラフィックデザインだけというものもあります。いつも最低3名のチームがいますが、複雑なものの場合は7,8名になる事もあります。全て私たちの手で、そして実験的な方法で行っています。
--最も気に入っているアートワークを教えて下さい。
基本的にはここに展示しているものはすべてフェイヴァリットです。一つ選ばなければならないとしたらウッドペッカーの頭をした男の作品です。芳醇かつダーク、警告的です。家にもありますが、みんなすぐに目を引かれますね。人によっては怖いようですが、美しいと思いますね。他の人がどう思おうと自分が好きならそれがその人にとってのマスターピースなのです。
--尊敬するアーティストを教えてください。
ミニマリストだったMark Rothkoです。私が常に賞賛してきたアーティストです。テートモダンにロスコの部屋があって、そこでよく自分の時間を過ごしています。私にとって世界中で一番、穏やかで静かな場所です。ほかには日本人のヒラキ サワで、彼は純粋で威厳と驚きに満ちた作品を作っている。
よく好きなペインティングについて聞かれるのですが、特にこれと言ってないと思います。ただ、ジャスパージョーンズのスリーフラッグを見た瞬間は忘れられません。私の中にある、アメリカのシンボルに対する嫌悪感を貫いた、特別な何かがある絵です。それから最近、大好きなRichie Culverの作品を手に入れました。
--インスピレーションの源はどこから?
目と耳です。楽器のようにビューティフルなものを翻訳してくれます。とくにヒーローやメンターみたいなものはいないですね。fabricでやっていることはフィルターなのです。自分たちが好きなものを聞き、セレクトしショーやプロモーションのために再構築しているのです。インスピレーションはプロモーターとしてそういったことをする中で見つけています。それをみなさんにそのまま提供できればと思います。先に答えたように私たちがやっていることは非常にシンプルなのです。
--自身でもDJをされ、膨大な数のレコードをコレクションをされていますが、好きなアーティストやジャンルは何ですか?
DJはCraig Richards、Ricardo Villalobos、 Eddie Richards、Richie Hawtin、Terry Francis、LTJ Bukhem。パフォーミングアーティストならDavid Bowie、Ryuichi Sakamoto、The Raincoats、 Lou Reed、Sam Cook、Karen Dalton、Eno、David Byrne、 Mad Professor、Cocorosie。
もっといると思いますがスペースが足りないですね。ダンスミュージック以外にもダブ、ブルース、ジャズ、フォークなんかも好きです。
--日本の若者に紹介したい注目するアーティストを教えてください。
もちろん。ただ名前を出すのは難しいですね。東京でショーをしたいと思っていますがまだセレクトできていません。日本のことについてアーティストと話すとみんな強い興味を示してくれます。イギリス人は日本文化に対する敬意や不思議さ、関心があります。日本のアーティストは私たちと違ったものをつくることができますから。本心としては、どういったことを日本からもっと学べるかに興味がありますね。
--現在のロンドンの音楽・クラブカルチャーシーンについてどう思いますか?
ベストの中の一つでしょう。デトロイト、シカゴ、ベルリンなど他にも音楽的に素晴らしいところはありますが、色々な事が常に起きている、かつ新しいアーティスティックな方向性も示すところはそれほどありません。そういった意味では常に風が吹いていますね。アンダーグラウンドもアクティブです。これはロンドンの人々が音楽、アートを愛しているということです。マーケットの原理としてニーズがなければ枯れてしまう。いつも新しいアートショーやイベントがありますからね。ガレージや高架下、駐車場などでもエキシビションが行われています。ゲリラスタイルですが素晴らしいし、止まることもない。24時間、アートが楽しめる街はロンドンを置いてないでしょう。
--東京のシーンはどう思いますか?
日本に2回来ただけなので詳しいことはわかりません。ほとんどが仕事でしたから。自分が経験したことに関しては素晴らしかったと思います。エキシビションの後にWOMBでやったパーティは特別なことでした。WOMBに来てくれた人々も素晴らしかった。ホームみたいでしたが、よりフレンドリーでした。来日する前から日本の事は好きでしたが、日本に着いた瞬間に何故かわかりました。ロンドンも良いですが、東京はまた違う魅力があります。他のどこでも体験できない何かがありました。
--今後のプロジェクトについて教えて下さい。
2つのプロジェクトがあります。一つはフェスティバル。もう一つは世界20年にアートラボを創りアートコミュニティを創ることです。
--将来的に日本でやってみたいことはありますか?
上記二つとまたアートエキシビションがやりたいですね。若いイギリス人アーティストのショーケースです。
--これからUS by fabric展を鑑賞する人々にメッセージをお願いします。
私たちの作品を楽しんでいただけると光栄です。紙のセレクトからプリント方法、材料、大変な労力と時間を作品制作に注ぎ込みました。このプロジェクト私にとって非常に楽しいものでした。全く同じエキシビションは二度と行われないので、楽しんでいただけると幸いです。また既に足を運んでいただけた方に改めてお礼を申し上げます。そして最後に、訪日中に受けた歓迎は素晴らしく、本当に楽しく過ごせたということを感謝したいと思います。