--自己紹介をお願いします。
ステファン・ドイチノフ、37歳、ブラジル生まれ、今もサンパウロを拠点に活動しているよ。
--今回の展覧会のコンセプトや、見所など教えてください。
今回のジュレマ・プレッタ展では、木版画、シルクスクリーン、ペインティング、陶器の立体作品まで幅広い表現方法を見せているんだ。今回のハイライトはディーゼル・アート・ギャラリーの空間のために特別にデザインし、組み立てられ、ペイントした巨大なジュレマ・プレッタのインスタレーション作品だね。
--作品が出来るまでの行程を教えてください。
僕が描き始めるとき、オリジナルのアイデアを思いつくのは大体スタジオに居ない時。ビールを飲んでいるかアイスクリームを食べているか、友達とビーチか公園で遊んでいるときか。で、急に思いついた時は紙切れや僕のノートブック、もしくはレストランのナプキンにラフなスケッチを描くんだ。それからスタジオに向かい、例えばA4サイズにスケッチを描き直す。もしそれが人物の絵だった場合は、ディテールを描くために友達か誰かに頼んでモデルになってもらうんだ。そしてまたA2サイズに拡大して同じ絵をトレーシングペパーに描き直す。その次もまたA0サイズに描き直す。とこの作業を繰り返すんだ。だからほとんどの僕のペインティングは、内容は同じだけどそれぞれ違うサイズのものが少なくとも4枚以上出来上がるってわけだ。それぞれのサイズごとにちょっとずつ異なっているのだけども。拡大して描き直すたびに少しずつ内容とデザインを変えていく。こうやっていつもドローイングからペインティングサイズの作品を作っているよ。
--インスピレーションの源は?
アイデアに行き詰まったことは今までないんだよね。僕の頭にはいつもアイデアがあるんだ。大抵の場合、何かのテーマについて常に考えたりはしている。例えば10年前だったら宗教について、宗教がどのように社会に影響を与えているかと考えていた。そこで作品に取り上げたのは髪。人間の髪、女性の髪、いろんな髪を作品にした。知っていると思うけど、宗教によって散髪の仕方や髪に対するルールが違うんだ。こういうことが僕のインスピレーションのひとつだったりする。最近はもっと政治的なテーマの作品が多いね。だから僕の頭の中で考えていること、僕が目にしたものが作品のアイデアになっている。基本的に宗教か政治に関することが僕のメインのトピックではあるよ。
--どのようにしてアートに興味を持ちましたか?またアーティストになろうと思ったきっかけは何ですか?
子供のころからずっとペインティングや絵を描いてたんだ。そのあとにパンク・ロックのバンドを組んだんだけど、自分はミュージシャンか漫画家になるものだと本当に信じていた。漫画が描きたかったんだよね。楽器の弾き方がわからなかった僕はバンドでボーカルだったのだけど、ある日、レコーディイングをしているときに自分の声が良くない事に気付いたんだ。パンクロックのバンドとはいえ、それでもヒドい声だった。しかもすぐに喉を痛めて声が出なくなるから、バンドは辞めて、自分のバンドのジャケットの絵を描くことにしたんだ。そこからブラジルのパンクロックや、ハードコアミュージックのシーンにいる友達のバンドの絵を描いたりするようになったんだ。それがすべての始まり。すべてミュージック・シーンから始まったんだよ。
--作品集「CALMA」と「CRAS」について教えてください。出版するに至ったきっかけは?
最初の作品集『CALMA』は僕がバイア州で行ったTEMPORALというプロジェクトについての本なんだ。そのプロジェクトは2年かけて行ったもので、僕がバイア州の地方へ出向き、宗教のシンクレティズム (混合主義) やフォークアート、宗教アートについてリサーチを行うためだったんだ。そして街全体をペインティングするという、その特定の場所のためだけに何か大きなアートをやりたいと思ったんだ。『CALMA』の本はそんな3年間のストーリー、2005年から2008年の僕の人生が詰まってるんだ。
二作目の作品集『CRAS』は2008年から2012年の4年間の間に僕が制作したすべての作品が収録されているんだ。僕のペインティング、ドローイング、立体作品、インスタレーション作品、とにかく全ての作品がこの2冊に収録されているよ。
ゲシュタルテンと一緒に仕事するようになったきっかけは、僕がまだレコードのジャケットアートをよくやっていた頃。Saves The DayやSepulturaのジャケットアートを描いていたんだけど、その作品がゲシュタルテンから出版されたミュージックデザイン本『SONIC』に掲載されたんだ。それがきっかけで、ゲシュタルテンの他の本にも次々と掲載されるようになった。だから僕の作品集を出したいと出版社に相談しようと思ったとき、第一候補はゲシュタルテンだった。そして彼らから即答で賛成してもらえたんだ。だから他の出版社に行く必要がなかったね (笑) 。それからもゲシュタルテンとはずっと良い関係が続いているよ。
-- Tattooやネイルアートでも人気を集めているようですが、ご自身の作品を身にまとわれるのをどう思われますか?
タトゥーに関していえば、すごく光栄だよ。僕の作品を僕の友だちがタトゥーとして彫っているのを見たことあるし、とても嬉しいよ。僕の作品がネイルアートになったのを見たのは、この間の来日した時だね!とにかく小さい爪にディテールまで描いてあって感動したね。本当に凄かったよ。
--日本のアートシーンについて、どう思われますか?
日本のアーティスト、usugrowとHAROSHIに会えたのはとても良い経験だったね。
--尊敬するアーティスト、またはミュージシャンは?
ESPO (スティーブン・パワーズ)、マウリツィオ・カテラン、マニュエル・オカンポが僕の大好きなアーティストだよ。トラッシュ・メタルバンドで好きなのは、ミュニシパル・ウェイスト、ニュークリア・アソルト、ノー・マーシー。ポップシンガーならリア・パリスだね。
--今回初めての来日ですが、滞在はいかがでしたか?興味を持ったことや、刺激を受けた出来事や場所などがあったら教えてください。
そうだね、今回が初めての日本だったよ。興味深く思ったことのひとつは、色々なスタイルの音楽やアートが上手くクロスオーバーしているということ。確実ではないけど、例えばアメリカだったら、普通はヒップホップはヒップホップ、パンクはパンク、グラフィティはグラフィティと分かれていることが多いんだよね。でも日本ではみんな自由に、そしてもっと簡単にいろんな傾向やスタイルを混ぜてるよね。日本滞在中に観に行ったバンドはハードコア・テクノ、パンク・ロック、アニメ、カラオケがすべてごっちゃ混ぜになったバンドだった。いろんな影響が上手く混ざり合っていてすごく良かったよ。日本で一番印象に残ったのはこういった文化だね。
--今後のプロジェクトについて教えて下さい。
パリで大きな壁画のプロジェクトがあり、ギャラリーL.J.でも個展をやるよ。それから次の春にはニューヨークのジョナサン・レヴァイン・ギャラリーでまた展示を行うのでその準備中。サンパウロでは沢山展示をやってきたので、東京やニューヨーク、パリなど他の都市での展示をいくつかやることにしたんだ。
--これから作品を鑑賞する人々にメッセージをお願いします。
展示に来たらわかると思うけど、テクニック、スタイルと僕の作品のいろんな側面をちょっとずつ断片的に見ることが出来ると思う。展示を見終わったら、僕の他の映像や動画を探してみて欲しい。そこで作品制作のプロセスについて語っているから、僕がどうやってアートワークを作り上げていくかより理解して貰えると思う。
翻訳:半澤順子 (Gestalten Japan)